蝉の声が頭の中に満ちていく。
わたしはゆっくりと目を開けて太陽の光に目を細めた。
身体は先ほどよりもずいぶん軽いな。
「あれ……? なんでわたし、部屋にいるの?」
机には友達の凛子と買ったお揃いの花のストラップがついた学校指定の鞄があり、床にはスマホの充電器が転がっている。
間違いなくわたしの部屋だ。
どういうこと?
さっきまで『生と死の裁判所』にいたはずなのに。
けれど、独り呟いてみても目付きの悪いあの鬼丸の姿はなかった。
「まさか全部、夢だったの……?」
事故に遭ったことも?
じゃあ、わたしは死なないで済むの?
裁判にもかけられることもないじゃん。
そう思ったけれどドアの横に掛けられたカレンダーを見て淡い期待は崩れ去った。
ーーー八月一日
「嘘でしょう……」
事故の日は二十五日だったはず。
鬼丸が言った、最後の夏休みを与えてやるっていうのは、本当だったんだ……。
でもまさか、時が戻ってるなんて。