鬼丸は黙ってわたしを見る。無表情に。

 「では聞こう。夏希。なぜ、お前は生きたい?」

 「え? そんなの……死にたくないからに決まってるでしょ」
 
 誰もがそうだろうと思う。

 死にたくないから生きている。


 「人は皆、いつかは死ぬんだぞ。それなのに、なぜ死にたくないと思う?」

 「はぁ? それは……」

 それは……。

 あとに続く言葉が出てこなかった。

 『死にたくない』

 それ以外、理由なんて見つからない。


 「だから、生きたい理由と過ちを見つけてくるんだ」

 鬼丸はふっと笑みをもらした。

 わたしを見透かしているような鬼丸から目を逸らす。

 
 「そんなに生きたいなら、最後の夏休みを死ぬ気で生きてみろ」

 真剣な眼差しはわたしを扉へと突き動かした。


 目の前まで行くとその巨大な扉に腰を抜かしてしまいそうになる。

 意を決して重い鉄の扉の真ん中を力一杯押す。