「……鬼丸」
「おい、まさか、俺のことか? その丸っていうのはなんだ?」
パチリと開いた目が驚きに染まる。
への字にした口からは今にも文句が飛んできそう。
「鬼って呼ぶとなんか怖いし。丸ってつけた方があだ名みたいでまだ可愛いでしょ?」
ハァ、と鬼丸が呆れたように溜め息を落とした。
「今時の女子高生はくだらないことを考えるんだな。好きにしろ。これからの話をする。時間がもったいない」
時間時間って。
目覚めてからもう何度も聞いた台詞だ。
「お前には、これから生きたい理由と己の過ちを見つけてもらう。しっかり自分を見つめ直すんだ」
「見つめ直す? どうやって?」
わたしは意識不明の重体だという状況なのに。
「お前に最後の夏休みを与えてやる」
「最後の?」
「そうだ。これが最後だ」
鬼丸は先ほどの記憶の泉のある方向を指さした。
その隣に大きな扉が見える。歴史の教科書かなんかで見たことがあるような古びた扉だった。
「行けばわかる。お前は人の話を聞くのが苦手みたいだからな」