「お前に限ったことではない。ここに来た奴等のほとんどはその罪を背負っている。まっさらといえば、赤ん坊くらいだろう。地獄行きといってもーーー」

 「ちょっと待ってよ!」

 「なんだ? 文句でもあるのか? 本当に人の話を最後まで聞かないんだな、お前は」


 わたしが話の腰を折ったからか男は忌々しそうに舌を打つ。
  
 だって命の無駄遣いだとかで地獄におとされるなんて冗談じゃない。あんまりだ。 

 「文句あるよ。当たり前じゃない。それにわたしはまだ生きる必要がないって判断されたわけじゃないでしょ?」


 「俺はお前の質問に答えただけだぞ」

 「そうだけど! てか、なんなのよ……あんた。鬼みたい」

 焦りと不安で悪態をつく。イライラしてきた。

 この男、目付きも悪いし、口調も刺々しい。

 おまけにわたしは地獄行きだとか宣告するし。

 確かにわたしが聞いたことだけど。


 「ああ。大抵の人間は俺と話していると鬼だの悪魔だの言うな」

 「じゃあ、鬼さん。わたしは地獄に行きたくなんかない。どうすればいいの? 教えてよ」
 
 「おいおい。露骨に鬼って呼ぶなよな。だいたい人に物を尋ねる態度じゃないぞ」

 「……だって、名前がわからないもの」

 「あいにく俺は裁判長としてからの記憶しかなくてな。前世、自分は誰でなにをしていたか。そもそも人間だったかもわからん。名前も、思い出せないんだ」

 目を伏せる男を見て、不覚にも名前がないなんてちょっと可哀想だと思った。