「何の騒ぎかと思ったら、あいつにしてやられたのか」


肩に羽織りを掛け、着物を緩く着た男が玄関の柱にもたれたまま、こちらを見下ろしている。


「一葉…」

翔の上半身を抱き起こしながら、彼の名前を呼ぶ。


のっそりとこちらへ来て、翔の顔を覗き込む。



「完全に油断してたな、こいつ。

…途中経過は聞いていたが、一度くらいは自分で雨の様子を見に行くべきだったか」


俯いて頭をガシガシと乱暴に掻く彼は悲しそうに見えた。

無頓着な彼にそう感じるのは、初めてだった。



「初めてあいつが俺に本気で刃向かったな」

ボソリと呟いた声は消え入りそうだった。


そう思ったのも束の間、一葉は勢いよく立ち上がると私の顔を見下ろす。



「翔からの情報は?」


聞かれるまま簡潔に答えると、一葉は瞼を数秒閉じた。


そして開いたと同時に、指示を出した。



「動くつもりは無かったが仕方ない。

準備しろ」


翔を私の手から奪い取ると、軽く担いで中に入っていく。


それに続くように、私も中へと急いだ。