「美華さん!

美華さん!!」


何度も呼ばれる名前と、肩に握る力強い手に導かれ、ハッとする。


片膝をつき、私の目線と同じ位置に翔の顔があった。



「雨さんのこととか、色々考えるのは分かりますけど、とりあえず一葉さんに報告しましょ?

ね?」


眉を下げて、無理やり笑顔を作る翔。


私の方が歳上なのに、子どもに言い聞かせるみたいに話しかけてくる翔に少し救われる。


こくりと頷くのを見て、私を支えながら立たせてくれる。


こういう時の翔は私よりも頼りになると、いつも感じる。


さっきよりも心の余裕を感じ始め、翔の顔を見ようと横を向く。


けれど、翔の顔はどこにも無く、代わりに私を支える手の感覚がゆっくり消えていった。


翔がいた場所から、ドサッと重いものが落ちた音がする。


ゆっくり下を見ると、翔が倒れていた。



「え?!

翔?!」


素早く翔の体を仰向けにすると、どうやら気を失っているだけのようだった。


そのまま後ろを振り向くと、片手を上げて手刀の型にした雨ちゃんがいた。


「美華さん、ごめんね…」



それだけ言うと、素早く門を出て行ってしまった。