「貴方って本当に面倒臭いわね…」


今度は少し悲しそうに笑って、自分よりも背の高い彼の頭をそっと撫でる。


少し惚けながらも、彼女の手を掴んだ翔。


「美華さんだって、そうでしょ?」


複雑な表情を浮かべ、彼女は手を払い除ける。


少し下を向いて呟く。


「私はたまに翔が分からなくなるわ。

貴方、少しずつ一葉に似てきてるわよ」


翔は目を見開き、「それは光栄っす」と笑う彼に、「褒めてないわよ」と悪態をつく。




「…また何か分かったら教えてちょうだい」



それだけ言い残し、彼女はその場を後にした。


誰に聞かれているとも知らずに、二人が居なくなり、静けさだけが残る。



翔と別れた後、彼女は香月雨の様子をそっと障子を開いて確認する。


スヤスヤと眠る様子に安心し、またそっと障子閉めた。



閉められた部屋の中、静かに瞼を開ける。


布団から片手を出し、ギュッと拳を握ってみる。


「……行かないと」