「久しぶり!」

ある放課後、下駄箱で靴を履き替えていると突然話しかけられた。
人見知りの私は思わず黙ってしまい気まずい空気が流れる。

「小学校の時以来だから七年前ぐらいかな?」

もしかして私の知っている人なのかと思い顔をあげてまじまじと相手の顔を見る。
やっぱり見たことのない顔の男子だ。人違いかな?

「夏子?」
彼が言う。
え、私の名前を知っているということはやっぱり知り合いだったのだろうか。

「佐滝夏子だよな?」
あ、違う。私は佐滝夏子じゃなくて泉谷夏子だから人違いだ。
私がこの人のこと忘れてたんじゃなくてホッとした。

「人違いですよ。私、泉谷夏子ですから」
なにかおかしくて少しふふっと笑って私は答えた。
「えっっ!?」
彼は目を見開き驚くと手を顔の前で合わせ「ごめん!」と謝った。

「本当ごめん!俺の勘違いで。失礼なことしちゃったし、ジュースかなにか奢るよ!」
「大丈夫ですよ」
別にそこまでしなくていいのに。
「いや、奢るよ。じゃないと申し訳なさで俺の心が壊れる」
「……ふっ」
あっ鼻で笑っちゃった。

結局私はジュースを奢ってもらった。
なんだか得した気分。

「本当ごめんね。同じ名前だったからつい早とちりしちゃって」
「全然大丈夫です。びっくりしましたけど」
校庭のベンチに座りジュースを飲む。
「同じ名前だったんだ」
「探している子と私が?」
それはちょっと安易な判断すぎないか?同じ名前の子なんてたくさんいるだろう。
「それに少し顔も似てたから」
「顔が?それは少し興味がありますね」
「興味?」
しまった。つい口に出してしまった。
「あの…なんというか。その似たような顔ってどんな顔だろうと単純に思ってしまって」
彼はしばし私を持てきょとんよした顔をすると言い放った。

「じゃあ一緒に探してくれない?」