カーテンが閉まっていて中は真っ黒だと思っていたが、それは誤り。真っ黒な体であり、小屋という器に隙間なく詰まっていただけ。それでも尚も動こうと、芋虫のような小さな丸い歩脚ーー巨体全体に何万と敷き詰められたかのようなそれを賢明にうぞうぞと動かし小屋の中で移動している。
やがて、外の空気を感じ取ったか頭と思われる部位ーー六つの赤い複眼が解放された扉から覗き込んできて。
「い、いぎゃあああああああぁ!」
ようやっと秒針が刻まれた気がした。けたたましいピンクさんの悲鳴と重なる重低音は小屋が瓦解する音。
何のことはない。乙女はあれを目にすれば、こうする。
大乙女のピンクさんともなれば、担いだ巨木で小屋ごと巨大黒い芋虫を吹き飛ばすことは造作もなく。私が出来ることと言えば、丸太で行われたホームランに巻き込まれないよう彼に押し倒された先の光景ーー宙を舞う巨大な黒い芋虫こと成長した『そそのかし』を見ることしか出来なかった。
「うぞうぞ……」
絶対、しばらく夢に出るタイプの芋虫だった。それを退治してくれたピンクさんにお礼を言うべきなのだけど、あまりにも衝撃的な恐怖で体がついていけない。彼の案じる声も、泣いているピンクさんがそんな彼を後ろから羽交い締めにして抱きついたり、小屋の残骸の下敷きになるもやしのような影の薄い人物に「七男ー!」と駆け寄る小人さんたちにさえも反応を返せないがーーとりあえず。
「帰ったら、ゲノゲさんに囲まれよう」
そんな目標(癒し)があるからこそ、人はまた仕事を続けるのであったとさ。