「赤ずきんは、このばあばが決めた相手と結婚するに決まっているんじゃ!」

ピンクのナイトガウンに、フリルたっぷりのナイトキャップを被ったおばあさんがそこにいた。

「え、えぇ……」

救世主のイメージとはかけ離れた存在のおばあさんだが、当の人は狼を恐れず果敢に言葉を投げつける。

「おまえさんのような毛むくじゃらに、かわいいかわいい孫を任せられるものか!」

「だからって、結婚相手にそんな猟師を選ぶってのかよ!」

「猟師なんぞに、かわいいかわいい孫をやるものか!おお、ちょうどいいのぅ。そこな図書館。かわいいかわいい孫に相応しい、小リスのような愛らしく無垢なそれはそれは玉のような少年を物語の登場人物に書き加えてくれぬか。このままでは、この不細工な猟師に孫を取られてしまうのでな」

おばあさんに、無理難題をふっかけられた!ここは無難な回答として、『上と相談してみます』と言うべきか。しかして、今はそれどころではない。今にも赤ずきんが、狼に。

「お待ちなさい!」

ああ、今度こそ、救世主がと涙すれば。

「赤ずきんは、どこにもお嫁に行かせません!かわいいかわいい赤ずきんは、ずっとママと一緒に暮らすのよ!」

赤ずきんの洋服とペアルックなママさん登場で、涙引っ込みました。

「結婚だなんていわば大博打!付き合いたての頃は優しかったあの人も、結婚して三年どころか一年経てば釣った魚に餌はやらない家庭ほっぽり出して遊び歩くクソ亭主に豹変!しかもか、ことあるごとに孫孫と何かにつけてかわいいかわいい赤ずきんを呼び出しては泊まらせようとする姑つき!こんな不幸な結婚生活をママのかわいいかわいい赤ずきんに味わあせてなるものですかっ!」

「嫁の分際でしゃしゃり出るんじゃないよ!物語の序盤にしかいないじゃろうに!」

「お義母さんこそっ!狼に丸呑みされて終盤に助けられる程度の出番じゃないですか!第一、お義母さんが狼なんかに呑まれなければ、かわいいかわいい赤ずきんが怖い思いをすることもないのに!毎回毎回、かわいいかわいい赤ずきんを呼び出さないでもらえます!?」

修羅場の豪速球キャッチボール勃発。
嫁姑はどこの世界も仲違いするものらしい。