「君に恋心を抱くのは俺だけでいいんだ」
彼は、私に惚れていた。
赤ずきんの登場人物ではない。そうして、私の所属する図書館『フォレスト』の従業員でもない。
一般的に聖霊と呼ばれる人種である彼は、何故だか人間たる私に惚れたらしい。しかもか、ぞっこん。それはもう、ぞっこんという言葉がピンクのドロドロに溶けて呑み込まれてしまうほど私を愛してしまった彼には。
「だからって、事件早期解決がための人物を落とすなああぁ!」
「そうして、俺を落としにかかるかぁ。俺はもう色んな意味で君に落とされたというのに、なおも過激に求愛してくれるなんて、もっと体重をかけて首絞めなきゃ」
いっそ、お前を落としてやろうかっ!な怒りの表現も、彼にとってはご褒美でしかなかった。脱力する。職務に戻らなければ。
「こんな紙屑より俺を使えばいいんだよ。迅速に、あの狼を灰にしよう。ーーというか、したいんだよね。俺の雪木と何時間も話せるなんて、苛ついてしょうがない」
「そんなバイオレンス思考だから、あなたには任せたくないのですよ」
「その拡声器、いいよね。これで雪木の声を直に耳で聞いて、鼓膜が破けたらと思うと興奮する。鼓膜ってさ、再生するらしいから何度でも君の声でーー」
「拡声器使用不可になりましたが、狼さん聞こえますかー」
聞こえるよーの返答を貰えたので、本気で鼓膜を破りかねない彼を無視して話を続ける。
「赤ずきんちゃんを拉致してからだいぶ時間が経っているでしょう。そろそろ、休憩にしませんかー。水と食料をお持ちしましょう」
「その手には乗るか、バーカ」
「では、この休憩は赤ずきんのトイレタイムも兼ねてますー。生理現象に抗っては体に毒ですよー」
「あ、あか、赤ずきんの、とと、トイレ!?お、俺は、その覚悟もあるぞ!」
「何の覚悟だ変態狼!ーーげほん、えー、ともかく赤ずきんちゃんを解放しなさーい!」
「するかー!今すぐにこの物語を、俺と赤ずきんが結婚するまでの話に改竄しろ!図書館の奴らなら出来んだろ!」
やはり、話は平行線か。