だから、僕らはなぜ別れてしまったのか。なぜ彼女はその決断に至ったのかは、結局解明されないままになってしまった。一体どういうつもりだったのか。気にならないと言えば嘘になるが、気にしても解決しない問題に時間や労力を惜しむのは非常にもったいない気がするし、何より負けた気になって癪に障る。何に負けた気がするのかはわかるはずもないのだが。そんなことを考えていると、時間はあっという間に進んでいたようで、僕がその時間の流れに気付かされたのは、授業の終わりを知らせるチャイムがなった時だった。
「将太。」
毎日のように聞くその声の持ち主は、確かに僕の名を読んだ。
「なんだ、一条か。」
「授業終わったぞ。いつまで座ってんだよ。ほら、飯だ、飯。」
小柄な僕よりも少し目線の高い一条誠は、昼休みが訪れたことがよほど嬉しかったのか、彼は声を弾ませながら、僕を昼食に誘った。
昼食のメンバーはいつも決まっている。今僕の隣にいる一条は、僕とは小学校からの古い仲で、お互いに何でも話せる、いわゆる親友というやつだ。あとは、誰よりも真面目という意味が似合っている仁科一希と、とにかく音楽が好きで、趣味でバンドのボーカルをしている五十嵐凌也。いつも僕らは昼休みの時間をこの四人で過ごす。
いつもの教室に行くと、仁科と五十嵐は先に定位置に座っており、口をそろえて遅えよと愚痴をこぼした。僕と誠は誤魔化すようにごめんとつぶやき、窓側に座っている彼らの向かいに座る。目線が急に低くなって、建物の影に隠れていた太陽が姿を現し、僕は眩い光に襲われた。
「お前らテストなんか返ってきた?」
五十嵐の質問に、みんなそれぞれ答える。
「おれはいつも通りの結果だったな。」
顔色一つ変えずに言い放つ仁科は、きっと今回も相変わらずの高得点を記録したのだろう。仁科は僕と違って正真正銘、頭が良い。なぜ、この高校を選んだのかわからないくらいに。
「おれは赤点なかったからいいや。」
両手を左右に広げ、セーフを意味するジェスチャーをする一条に続けて、僕はまあまあだったと付け加えた。
「そう言う五十嵐はどうだったの?」
僕はその問いに、初めから答えを聞くつもりは全くなかった。聞かなくてもわかるからだ。彼は補習常習犯。今回も僕らの期待を裏切ってくれそうにはない。今回もだめだったのだ。青ざめた彼の顔を見て、僕は確信した。
「赤点四つもあった...。」
だろうな。といったように、僕らは頷いた。その後は、音楽ばかりやってるからだとか、今度はもっと勉強しろだとか、五十嵐へのお説教タイムが始まる。これは、テスト返し後の恒例行事と化しつつある。初めはなんとか言い返していた五十嵐も、さすがに三対一は部が悪いらしく、すぐにその勢いは衰えた。結局はおれが悪かったと言って、事態は終息するのだ。これもまた恒例行事。
他愛もない話で盛り上がって、授業が始まる十分ほど前に解散する。仁科と五十嵐の教室は少し離れていて、偶然にも僕と一条は同じクラスなので、僕は二人に手を振ってお別れすると、一条と一緒に教室へと向かった。