「また、間違えてるぞ」

頭上から低い声が投げかけられる。私はその声の人物・・・月宮奏斗を睨み付けた。出会ってからというもの、話せる人が私しかいない為いつもそばにいるようになってしまったのだ。興味のないものには無関心で大抵無表情。髪は黒髪で、左耳にピアスを付けている。世の中でいうイケメンの部類に属されるのだろう。まぁどうでもいいけど。

現在、学生なら逃れることのできないテストという名の悪魔に襲われている真っ最中である。

「お前さ、何を今まで習ってたんだよ」

月宮君は私のテスト用紙を見るなり余計な事を口走ってくるため、テストができない愚かな自分と図星を突かれて戸惑っている自分があまりに情けなくて自分に対する怒りが沸々と込み上げてきていた。

「やめっ!」

先生が大きな声でテストの終了を告げる。込み上げてきていた怒りは、その声で消し去られたようだ。
う~ん、やっと終わった。と言わんばかりの伸びをしてみると、体のあちらこちらが軽くなったような気がした。
(それにしても、テスト出来なかったな...。)

「テスト出来なかったなって顔してるぞ。」

私は、すぐさまポケットに入っている携帯を取り出し耳に当て
「顔から読み取らないでよ」と呟く。この、携帯を耳に当てて会話をする行為は、私が1人で話している姿を周りの人から変な目で見られないようにする為という月宮君からの提案だ。よって月宮君と会話をする時は携帯が必要不可欠ということになる。

「あの時間に話しかけないでよね」

「なんで?」

「集中してるんだから、当たり前でしょ!」

「どうせ集中した所で答えが分かるわけでも、思い出すわけでもないんだからさ、無駄だろ。」

「そんな言い方しなくてもいいじゃん!」

「俺に楯突く暇があるなら、ちゃんと勉強しろよな。」

「うっ...。仰る通りです...。」

こんな具合に、月宮君と私は他愛もない会話を繰り広げる毎日を送っている。気が付けば教室には私と月宮君しか残っていなかった。
慌てて帰り支度をする。

「もう、帰るのか?」

「うん、今日のテストは終わったし明日のテスト勉強しないと。」

「ふーん。そうか。じゃあ、気をつけてな。」

「・・・って言いつつ校門まで来るんだね。」

「まぁ、1人で可哀想だしな。」

月宮君は、いつも校門まで送ってくれる。学校の外には出られないようで、その理由は不明らしい。
どうにか外に出ようと試みた事があるらしく、しかし結果は決まって出られないとのことだ。いつか絶対出てやると意気込んでいた気がする。
(まぁ、どうでもいいか。)私は、街灯もない道を駅に向かって歩き始めた。