「奥さん、受け入れ先決まりましたからね。今から病院へ搬送しますね。」

機材を片付けながら淡々と話す私にすがるように、妻は何かを大声で問いただしている。

それを無視する私の右手は震えている。

救命士になった理由の一つを思い出すからだ。

思い出したくない思い出が思い出される。

何年私はフラッシュバックと戦っているのだろう。

縋り付く人を見ていつも私は怯えるのだ。

無になろうとすると聞こえる、九年前の私たちの声。

笑い声が怒鳴り声に変わって、最後の声が聞こえる。

逃げ出す事を知らなくて、逃げ出す事を知っていた若いころの私たちの声は熱を失う。