健人さんの唇がそっと触れる。僅かに震える健人さんの唇に、私は手を伸ばして頬に触れた。


離れた唇に目を開けば、間近にある健人さんの瞳と交わる。



「健人さん、震えてる?」


「震えてない。」



閉じていく健人さんの瞳に釣られるように、私も目を閉じた。


何度も重なった唇が離れていった。



「花菜、好きだ。」



私を抱き締める健人さんを抱き締め返す。



「私も好きです。」


「花菜………。」



嬉しそうな健人さんに言葉で伝えて良かったと思う。



ん?


何もなかった?



「あの日、何もなかった?」


「ああ。」


「キスも?」


「ああ。花菜の気持ちが俺に向いたらキスするつもりだった。」


「つまり………本当に私を騙したって事?」


「騙した?人聞きが悪いな。罠を仕掛けただけだ。」


「………、実は腹黒い?」


「今頃?」



体を離して私を見下ろす健人さんがニヤリとしている。



「結果オーライだ。」