「幸って呼んでみて」



テーブルに体重を乗せ、私との距離を近づける。



「………ゆき…」


「ちっさ。本当に可愛いね、桔子ちゃん」



自分でも驚くくらいの声の小ささに吹き出すように笑われて、顔が火照ってくるのがわかる。



「ねえ、可愛いって口癖でしょ。本当にチャラい」



自分の余裕のなさが悔しくて、反撃を試みる。

皮肉を込めたら、タメ口で喋ることへの抵抗も自然となくなった。



「うわ、そんなこと言う?本当に可愛いって思ったんだから仕方ないじゃん」



さっきまで愛嬌のある笑顔にいちいちドキドキしてたのに、今ではそんな返しにも"チャラい"としか思わない。


私はそんなチャラい男には騙されない。

むしろチャラいと思うほど冷めてしまうタイプだ。



「ごめん、可愛いからちょっと意地悪したくなったの。許して」



そう言って眉を下げて私の様子を伺う。



「これでちょっとは仲良くなれたでしょ?」



まあ、確かに。

元から話しやすかったけど、年上ということもあって、どこか遠慮している節はあった。
自分の中のそんな壁が、今の流れで薄れた感じはする。


渋々素直に頷くと、困り顔がパッと笑顔に変わる。



「やった!よかったあ」



へにゃへにゃと笑う幸に、自然と頬が緩んだ。