「寝転ばないの?」
「寝転びたいけど……
由真ちゃんと織春に悪いし……」
「幼なじみでしょ。
別にやましいことするわけじゃないんだし、やましい気持ちもないんだからおいでよ」
そんなふうに言われては、逃げ場がない。
どうしようもなくておそるおそる空けてくれた場所へ寝転ぶと、途端に恥ずかしくなって千瀬に背を向けた。
「そんな端にいると落ちるよ」
ぐっと身体を引き寄せられる。
すぐそばに千瀬の体温を感じるせいで、落ち着かない。スマホに意識を集中させようとしているのに、「ねえ」と話しかけてくる千瀬の声が近くて。
なに、と返事した声が、わずかに波打つ。
「……織春とふたりで勉強した日。
ほんとに、なんかされたの?」
「……まさか。
みんなが勝手に言ってるだけよ」
「……そう」
後ろからお腹に手を回してくる千瀬。
ぐっと耐えるようにくちびるを噛んで、織春に『今日はありがとう』とメッセージを送る。
「……十色さんのことはもういいの?」
「愛情をくれる人に甘えてみるのもいいと思っただけよ。
……ひとりで思ってるのは、もう疲れたの」
そっと髪を撫でられるせいで、だんだんねむくなってくる。
「そっか」と彼がつぶやいたのを最後に、部屋はシンと、痛くない沈黙に包まれて。──自分でもわからないほどいつの間にか、ねむりへと落ちた。