試すような、蔑むような瞳だった。

だからきっと、何か過去にあったということは、わたしにもわかってた。……それが、これだ。



自分を裏切った女の人みたいに。

わたしには、織春を裏切らずにいてほしい。



あくまでわたしの自分勝手な考えだけど、きっと、そんなものなんだと思う。

羽泉にとっては、織春がいたことでその人に裏切られたことよりも。大切な仲間である、織春が大事だったから。



「……だから後悔しないぐらい、

お前への気持ちは惜しまないって決めた」



「……織春」



さあ、と、潮風で流れるように揺れる黒髪。

その姿が十色に重なって見えたのは、いつのことだったか。──いま目の前にいるのは、織春だ。



なにがあっても。

わたしを好きだと、言ってくれる人。




「……莉胡」



つながれたままだった手を引かれて、織春の胸におさまる。

夏の炎天下。なのに暑さは気にならなくて、世界から切り離されたみたいに、聞こえるものは波の音と彼の落ち着いた優しい鼓動だけ。



「……まだ莉胡の気持ちが追いついてない時点で、こんなことを言うのかはどうかと思ってる。

でも、ちゃんと伝えておきたい」



「……うん、」



「俺んとこに来い。

……一生かけて、愛してやるから」



まぶしいくらいにまっすぐで、ひたむきな愛の言葉。

それに「ありがとう」を告げて、手持ち無沙汰だった腕を、織春の背中にまわす。──今度こそその笑みに、嘘なんて、なかった。



「まだ、ほかの人のことが、好きなの。

……でも、織春のことを好きになりたいって、ちゃんと思えたから。ゆっくりでも、平気?」