「自分のこと好きだって言ってる男に、

そうやって気を持たせない方がいいぞ」



「ほかの人にはしません。

……織春といるの、本当に気が楽なのよ。誰かと一緒にいる時みたいに深く考えたりしなくていいし、」



決して単純な人ではない。

だけど、千瀬や十色のようにむずかしくない。──いつだって駆け引きのように会話を繰り返してきたわたしにとって織春の存在は、意外にも大きかった。



「そばにいて、心地いいって思ってるの」



わたしを好きだと言ってくれる分だけ。……ううん、それ以上に。

わたしに愛情を惜しむことなく、優しくしてくれる織春。



「……ちょっと遠出して、海でも行くか」



行き先は決まったようで。

それにこくりとうなずき、のんびりでいいという彼の言葉にとことん甘えて、時間ぎりぎりまでケーキを堪能したあと。




「綺麗……、

夏なのに、ここの海は全然人気(ひとけ)がないわよね?」



電車を2度乗り継いだ時点で人気のなさに疑問を抱いていたけれど。

目の前に広がる綺麗な海。砂浜をちらほら歩いている人がいるくらいで、海には無人だ。



「ここ、波が荒いから遊泳禁止になってんだよ」



「ああ、それで誰も入ってないのね。

ちょっぴり遠出したけど、このあたりも詳しいの?」



「いや。ここを教えてくれたのは羽泉だ」



どちらともなく手を繋いで、道路から下につながる階段をおりる。

砂浜独特の感触はひさしぶりで、思い返せば1年前は、月霞のたくさんのメンバーで海水浴に来た。



十色が、「中学生なんだから色気づいてビキニなんて着ないこと」と、口うるさく言ってきたんだっけ。

……結局露出控えめな水着を十色が買ってくれて、着るも何もなかったんだけど。