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「ふ。しあわせそうだな」
──コーヒーカップを片手に、微笑を浮かべる美男。
まわりのマダムだったり女子高生だったりの視線を集めるこの人が、わたしの彼氏だ。
「だって、美味しいんだもの。
食べなきゃもったいないわよ?織春」
テストが終わったその週末、わたしは例のホテルのレストランで開催されているケーキバイキングに、織春と来ていた。
そういえば織春とふたりで出かけるのは今日が初めてだから、初デートってことになる。
「じゃあ、一口もらう」
「ふふ、うん。あーん」
ケーキを一切れ、フォークで彼の口元にはこぶ。
ぱくりとそれを食べた彼が、ぺろ、と軽くくちびるを舐めるその姿すら色っぽくて、まわりの視線が余計に織春に釘付けだ。
「甘ったるくはないな」
「ふふっ。でしょう?
ねえ織春、連れてきてくれてありがとう」
こうやって女性だらけなのはわかっていたから、千瀬は嫌がってたけど。
あっさり連れてきてくれた優しい織春にお礼を言えば、「莉胡が行きたいならいくらでも連れていってやるよ」と、なんともイケメンな台詞が返ってくる。
春と付き合う前や付き合ったときは不慣れ感を醸し出していたわたしだけれど。
春とふたりでテスト勉強したあの日、彼がくれたたくさんの甘い言葉に、いっそ開き直ろうと決めた。
「このあと、行きたいとこあるか?
近くにショッピングモールもいくつかあるだろ」
「……織春といられたら楽しいから、
べつにどこに行っても構わないわよ」
これは彼を煽てるわけでもなんでもない。
わたしの本心だったのだけれど、織春は一瞬その綺麗な顔を幼く見せるようにきょとんとして、それからくすりと笑った。