「なぁんか、色気増したよな〜」
春に髪を撫でられて、気持ちよさそうに目をほそめる莉胡。
ふたりが振りまくそのしあわせそうなオーラを見てられなくて視線を逸らした先。由真が困ったように俺を見上げたから、なんとなく、俺もそんな顔をしているのかもしれない。
「莉胡〜。
昨日春と"ふたりっきり"で勉強したんだろ?どうだったよ〜?」
「え?
……もう、あんまりそういうの聞かないで?」
普段なら「何もない」って即答するくせに。
ちょっと顔赤いし、なんでそうやって誤魔化してるわけ……?
「へえ〜?春になんかされた?」
そんなわざとらしい問いかけにも、「されてないっ」と意地っ張りに返す莉胡。
その否定具合がたまらなく怪しくて、押し黙った俺の服を、由真が引いた。
「ん?なに?」
「チャイムなるから、席行くね」
「ああ、うん」
そんな曖昧な返事で由真を見送り、俺も自分の席につく。
──昨日、電話で十色さんの話を出した時は、それなりの反応をした莉胡。もちろんあれは嘘なんだけど、今度こそ、春に落ち着いたんだろうか。
「どうなんだよ春〜。
昨日莉胡になんかしたんだろ〜?じゃないと莉胡はこんな反応しないだろ〜?」
「……さあ?」
東から、西。
莉胡が選んだトップが、ただ変わっただけで。俺には何の関係もないって、わかってる。──なのにどうして俺は、こんなにも複雑でいるんだろう。