……うそだけど。

テストの合間に彼女が復習で広げていた教科書の裏にあった『片霧 由真(かたぎり ゆま)』の文字を見ただけだけど。



「っていうか。

あんなに強引に話しかけてきたから、てっきりそういう性格なのかと思ったけど。案外ふわふわしてるよね」



「ふわ……ふわ……?」



「小動物みたい」



どこが……?と言いたげに首をかしげる彼女。

……まったく、あんなふうに莉胡を好きでいるより、由真といる方が幸せだろうに、春ももったいない。



「……とりあえず色々考えながら帰ろうか。

話は終わったし、家まで送ってくよ」



結局手をつけることのなかった勉強道具一式をバッグに詰めて、うなずいた由真と図書室を後にする。

家どのあたり?と聞けば、ここの最寄りから電車で2駅らしい。




「明日、一緒に登校しようか」



「え、でも……」



「俺徒歩通学だし。

途中で駅の隣通るから、ここの最寄りで待ってるよ」



「……千瀬くんって、

付き合ったらハイスペックな彼氏だね」



「そ?

彼女はとことん甘やかしたい主義なだけだと思うよ」



いつも莉胡のことも甘やかしてるし、と。

何気なく浮かんだ彼女の姿を打ち消して、「うれしい」とニコニコする由真がなにか言いたげに差し出した手を、仕方なくつないであげた。



「甘やかしてくれるから、

おひめさまみたいな気分になれるね」