「も、もしもし莉胡ちゃん……?

あのね、いま千瀬くんと一緒にいるんだけど、あの、千瀬くん、また体調悪くなったみたいで、」



テーブル越しだと向こうの声が聞こえないから、彼女の隣へと移動する。

電話の向こうから聞こえたのは、『熱あるの?』だったり、『今どこ?』だったり、とりあえず心配して慌ててる声で。



「熱あるみたい、で、

学校の図書室にいるんだけど、」



『織春、ごめん……

あのね、千瀬が高熱出し──』



莉胡が、春に断るのが聞こえる。

ほんとに作戦通り動いてくれるな、と思いながら彼女の耳元にくちびるを寄せて、わざと電話越しに聞こえるように話す。



「ちょっと由真(ゆま)、なに勝手なことしてんの。

俺にかまって欲しいからって莉胡に電話するのは卑怯じゃない?」



どうやら恋愛に対する免疫がないらしい。

演技でも顔を赤くした彼女の髪を「お疲れ様」の代わりになでて、その手からスマホを抜き取った。




『千瀬……?』



「ああ、ごめん莉胡。高熱とか嘘だから。

ちょっと目を離した隙に、由真が勝手に電話かけてた」



『そ、っか……

大丈夫なら、いいの……』



「……そういえばさっき十色さんから連絡あったけど。

あの人莉胡のこと相当好きだよね。春と一緒にいること伝えたら、『まあいいや』って電話切られたよ」



『え……、』



「とりあえず由真が拗ねてるし、春にも悪いからもう電話切るよ。

放課後デート楽しんで」



わざとらしく付け足して、電話を終える。

隣で俺を見ていた彼女に、告げるのは一言だけ。