言いたいことだけは、山のようにあるのに。

どれも言葉にならなくて、わたしが取った行動はといえば。



──ぷつ、と。

静かに十色の声を断ち切ることだけ。



「っ……なんなのよ……」



あんなふうに、俺は後悔してないなんて告げられたら。

とことん穏やかに返されたら、それ以上責めることもできない。



だって、まるで。

愛を囁くみたいな、声だった。



そんなはずは微塵もなくて。

告げられたことは掠りもしないのに、「好きだよ」と言われたような錯覚を起こしているのは、どうしてだろう。



──いっそ愛を囁かれたら、拒むことで知らないふりできたのに。

強く強く印象に残る声。電話越しの彼の表情が手に取るようにわかるせいで、脳裏に焼き付いて、一向に離れない。




「っ、」



気を抜くと、尽きない悩みの渦中に溺れてしまいそうだ。

ミヤケに千瀬のことを頼みたかっただけなのに、とんだ誤算。ひどくわたしの心を占領する十色におこがましいと思いつつも、切り離すことはできなかった。



ベッドの中で、おおきなテディベアを抱きしめる。

それは十色が昔デートした時にクレーンゲームでとってくれたものだけど、ただただお気に入りで、安心したい時には抱きしめるようになっていた。



「……ばか」



テディベアに顔をうずめて、目を閉じる。

このまま眠れば、きっと……



『好きだよ、莉胡。

……俺が、しあわせにしてあげる』



ばかだと、言われてもいい。

それでも純粋にあなたのことを好きだったあの頃に、もどれるような。そんな気がしたの。