あきれるように落とされるため息ですら、わたしの心を蝕んでいく。
それと裏腹に頬を撫でた手のひらはやけに優しくて、傷つけたくせに、癒してくれるみたいで。
「……ごめん。ちょっと言い過ぎた」
我をとりもどしたように小さく謝った千瀬が、わたしと額をこつんと合わせる。
黒髪を撫でる手はわたしを自然と安心させてくれて、一粒だけ、涙が頬を伝った。
「……わたしも、しつこく聞いて、ごめんなさい。
でも、千瀬がそんな風に怒ると思わなくて、」
「……ごめん。
もう怒ったりしないから、泣き止んでよ」
視線を合わせて困った顔をする千瀬に、「もう泣いてないよ」と手を伸ばす。
その手を絡め取った彼はほっとしたように「よかった」とつぶやいて、微笑みかけてくれた。
険悪な空気が綺麗さっぱり消え去って、いつも通りの空気に安心する。……けれど。
──ガチャ、と。その扉が開いたときにはもう、遅い。
「莉胡ー?」
わたしの名前を呼ぶ声と、次の瞬間、絶句するような沈黙。
はっとして振り返ったのはわたしだけじゃなく千瀬も同じみたいで、扉の向こうに見た人影に、凍りつく。
十色と、副総長の乃詠(のえ)さん。
千瀬がわたしの上からすぐさま退いてくれたけど、ふたりが見た光景は、変に生々しかった。
「……千瀬。
莉胡に、なにしてくれてんの?」
「ッ、違います、いまのは誤解うむような格好してた俺が悪いですけど、」
「……莉胡」
「十色、ほんとに事故なの。
……見たのに事故だって信じてくれないかもしれないけど、ほんとに、何もしてない、」