──その十色を、裏切った。

たしかに千瀬の言う通り事故だった。



その日はあいにくの曇り空で、倉庫の幹部候補以上だけが立ち入りを許されている2階。

めずらしく用事で出かけているせいで幹部は誰もいないから、幹部室にひとりでのんびりしているわけにもいかない。



千瀬は当時わたしと同じ中学3年生で、彼は年齢的に次の幹部候補だった。

ほかの幹部候補生は全員階下にいて、2階に足を踏み入れられる人間なら誰でも使える部屋に、千瀬とふたりきり。



そこでふと気になった疑問を口に出すと、千瀬は「それがなに?」とあきれたようにわたしに視線を向けた。

……それがなに?って、なに、その態度。



「心配してるんでしょ?幼なじみを。

彼女つくらないのは千瀬の自由だけど、あまりにもたくさん遊んでるから、どうなのかと思って」



「……どうでもいいでしょ、莉胡には。

幼なじみだからって干渉しないで欲しいんだけど」



千瀬は、いつも、こうだ。

冷たいし、本当は優しいのに、女の子の話を出すとすぐにいつも以上の冷酷さを発揮する。




それに、ぷち、ときてしまったのが悪かった。



「……なんで、そういうこと言うの?

たしかに関係ないかもしれないけど、ずっと一緒にいた幼なじみなんだもの。しあわせになってほしいって思ってるんだから、心配するのも当たり前じゃない」



わたしに視線の一度もくれない千瀬。

ソファで悠々と足を組んでいるその格好にさらにイラついて、その肩を揺すった。



「揺するのやめて」



「だって千瀬が、」



「……ああもう、うるさい」



ぐっと腕を引かれて、強く打ったはずの背中にはやわらかい感触。

一瞬でぐにゃりと歪んだ視界についていけなくて瞬きするわたしを、千瀬が……見下ろしてる?