「……莉胡が平気なら、別にいいよ。
家でシャワー浴びてくるし。……春、俺がもどってくるまでの間、ちょっと莉胡見といてくれる?」
「ああ。ちゃんと温まってこいよ」
「ん、わかってる」
玄関とか濡れてるけどごめん、と謝った千瀬に、「拭いておくからはいってきて」と言った莉胡。
リビングから玄関の間の床を拭きながら顔を上げた莉胡は、「キスのこと何も言われなかった」とぽつりとつぶやく。
「物音がしてびっくりしたわたしのこと、春は安心させてくれたでしょ?
見えなかったとか、見てなかったとか、そんなことないと思うけど……」
「……あえて、何も言ってないだけだろ」
莉胡のことを大事に思ってる千瀬が。
──俺と莉胡のあの場に遭遇して、傷つかなかったはず、ないだろ。
「……雷のせいで言いそびれちゃったけど。
わたし、春と付き合うって、言おうとしたの、」
「………」
「……そしたら、千瀬は離れていっちゃうと思う?」
千瀬にだってプライドはある。
幼なじみとして莉胡のそばにいた千瀬は、もちろん莉胡が雷がだめなことも知っていた。──そしておそらく、いままで雷の日に莉胡を宥めていたのは千瀬だ。あの様子を見てればわかる。
「……千瀬に離れて欲しくないなら、
俺と無理に付き合う必要もねえけどな」
「あら、さっきと矛盾したこと言うのね。
……弱ってる時に甘やかしてくれたあなたに、一瞬でも揺らいでキスを受けた時点で、同罪でしょう?」
千瀬は、表に出さない。
でもその裏できっと傷ついてる。──確実に。