「だから遅刻するって言ってるでしょ。

5分で準備しなよ。間に合うから」



年頃の女の子がたった5分で準備できるわけないでしょ……!?

とは言いたくなるものの、悪いのは寝坊したわたし。とっくに7時を知らせるアラームを啼(な)き終え、澄ました顔をしているように見えるスマホをスクバに入れる。



「リビングで待ってるから」とのんきに千瀬が部屋を出ていく中、ひとりでばたばたと支度。

制服を着終えてから洗面所に駆け込み、顔を洗って、歯を磨いて長い髪をひとつに束ね、あっという間に支度完了。



「おばさん、コーヒーごちそうさま。

……ほら、行くよ、莉胡」



「なんでのんきにコーヒー飲んでるの」



「……あらあら、せわしない子。

千瀬くんいつも迷惑かけてごめんなさいね。いってらっしゃい」



遅刻する時間になっても起こしてはくれなかったお母さんに見送られ、千瀬と並んで家を出る。

幸い、学校までは徒歩10分で。千瀬が毒づいた通り5分とすこしで支度を済ませたから、なんとかホームルーム開始には間に合いそうだ。




「……莉胡」



「……なに?」



「……、

まだ、あの人のこと好きなの?」



あの人。……千瀬がそう言うのはたったひとりだけで、わたしがずっとずっと、だいすきだったひと。

どうしても手を離すしか、なかった人。



「……好きよ。ずっと」



「……もっかい、説明すればいいよ。

わざとらしく聞こえるかもしれないけど、俺がああやって莉胡に迫るようなカタチになったのだって、ただの事故なんだから」



そうでしょ?と千瀬は言ってくれるけど、いまさら弁明してそばにいるほど、わたしは精神的に強くない。

もうあんな蔑んだ目を向けられるのも嫌で、ふるふると首を横に振ってから、幼なじみに笑ってみせた。