……ああ、ずるい、な。
そんな綺麗な顔をした男にそこまで言われたら、莉胡も多少はグラっとくるだろうに。
「それでも、そう簡単には認められない。
……莉胡のことを手放した人のことは、俺だってずっと信じてた人だった。莉胡のことをしあわせにできる唯一の人だって信じてた」
「お前がどれだけ莉胡を大事に思ってるのかは誰もがわかってることだろ。
……それも承知の上で俺は莉胡が、」
「ハイハイお前らちょっとやめような〜?
ふたりから求愛されて莉胡が限界らしいんだわ〜」
ゆるい声に、遮られて。
ん?と我にかえれば、両手で顔を覆っている莉胡。ちょっとだけ覗く頬は赤く染まっていて、全部は見えないけれど顔が真っ赤なのはわかる。
「別に俺は求愛してないんだけど」
こんなことで恥ずかしがらなくても。
どうせ十色さんは、もっと甘い言葉で莉胡をめろめろにさせてたんだろうし。
「不意打ちでそんなこと言われたら、誰だってびっくりするし恥ずかしいに決まってるでしょ……
もう、おかげで顔熱いし、ほんと、」
ぱたぱたと手で仰ぐように顔の熱を冷まそうとする莉胡に、春はいとおしそうな視線を向ける。
言葉なんてなかったとしても、莉胡への想いが十分に伝わるほどに。
「……莉胡」
「なに、千瀬、」
「今日、俺ちょっと用事あるから。
……帰りは春に送ってもらってくれない?」
「え、」
身を引く、なんて、そんな表現は似合わない。
──だってそれじゃあ、まるで俺が、莉胡のことを好きみたいでしょ?