……まあ。

目立つこともあまりなかった俺と違って、東側の人間が十色の彼女だった莉胡を知らないわけないし。いざとなれば手を使って、莉胡を守ることは出来るだろうけど。



「……春のお気に入りには、代わりがきく。

もちろん春が莉胡を大切にしてくれてるのはわかってるし、その気持ちを否定する気はないけどさ」



莉胡の視線が、ゆっくり俺を捉える。

迷うようで、だけど核は持ってる。──そういう莉胡だから、俺はまだ、手を離せなくて。



「俺の幼なじみは莉胡だけなんだよ」



「……千瀬」



「俺が何年莉胡と一緒にいると思ってんの。

……そう簡単には傷つけさせないから」



莉胡は俺の前で泣いたりしない。

だけど十色さんのことでは、過去に2回、俺の胸にしがみついて泣いたこともある。……それぐらい、莉胡にとって大事な人だった。




「千瀬」



出来ることなら、もう二度と。

彼女がしあわせそうに笑っている姿以外は、見たくない。



「たしかに俺は千瀬と違って、莉胡と出会ってまだ半年も経たない。

……それでも。中途半端な考えで、俺のせいで危険に晒すようなまねはしない」



「当たり前でしょ、そんなの」



「でもな、先代から受け継いだ以上、俺は累を投げ出せない。

莉胡のことを優先してやりたくても、累に何かあったらできないことだって出てくる。それは痛いほどわかってる」



数ヶ月一緒にいて。

春がこういう人間だってことは、ちゃんとわかってて。



「わかってても……

理性なんて言葉で片付けられないくらいには、莉胡のことを大事に思ってんだよ」