「もし東側の人間なら……
莉胡ちゃんのストーカーだったとしても、排除はできないね」
「……? どうして?」
「莉胡が知ってるように、関東は東と西で対立してるんだよ~。
俺ら西側と、一番組織がデカい東側の月霞が喧嘩なんてしたら、大抗争になるよ~?」
「でもさっきは、喧嘩した相手を調べるときに見かけた、って……
それがほんとだとしたら、東側と喧嘩したことも普通にあるのよね?」
莉胡はこういうところが変に鋭い。
月霞にいたころも、幹部同士の会話で莉胡に聞かれたくないものがある時は、しれっと空気を読んで抜け出していたらしいし。
「多少の喧嘩なら、そう大きくはないけど……
東側にも俺らみたいに傘下がいるから、相手がどこに所属してるかによっても変わってくるし、あとは、」
ちらりと羽泉が視線を向けたのは、春で。
言いたいことは、なんとなくわかる。
「……莉胡ちゃん、春のお気に入りでしょ。
うん、まあ、お気に入りって言い方はアレだけど」
「そのお気に入りのコのために、総長が手を使ったってなると……
向こうも無視はしてられねえよな~?」
──そう。
これがもし、下っ端の子のお気に入りだったり彼女だったりするのなら、何も問題はない。けれど、春は西側のトップだ。簡単に私情で手を下せない。
それに。
西側の人間は知らないけど、もしその"お気に入り"が莉胡であることを東側の人間に知られたら、十色さんの元カノ、として敵視される可能性が出てくる。
それこそ、莉胡が危ない。
「……莉胡のことを考えたら、
何もせずに自分たちで守る方が安心だろ」
「でも、トップの人間のお気に入りってことがばれたら、それこそ危ないんじゃないの?
……言っとくけど俺は幼なじみを危険な目には遭わせられないよ」