「莉胡ちゃん、あの男とほんとに初対面?

どこかでほんとは会ってるとか、どこかでつけられてるような気配を感じたとか、なかった?」



「え、あ、うん……なかった、と思う……

基本的に千瀬としか外出ないから……」



「莉胡にストーカーなんかいたらとっくにわかってるって。

俺の親父は探偵だし、莉胡のこと溺愛してるから、もし莉胡がストーカー被害に遭ってるならどんな案件放ってでも調べてくれるよ」



それって探偵としてどうなのかと思うけど。

莉胡のことを誰よりも大事に思ってくれているのは本当で、だからこそ、ありがたいと思う。



めったに家に帰ってはこないけど、たまに帰ってきたと思えば「ただいま」より先に、

「最近、莉胡は?」と聞いてくるような親父だ。



「……なら、

莉胡ちゃんと関係のないところで見かけたのかな」



羽泉が小さく息を吐いて、ブラックコーヒーの入ったジュースパックを軽く揺らす。

莉胡はミヤケのことで変なことを言わないようにか、ちまちまとミルクティーを口にしているだけだ。




「羽泉が見覚えあるなら……

東側の人間って可能性が高いんじゃねえの?」



「え……

見覚えあるなら、って、どういうこと……?」



東側、を当てられたせいか、踏み込んだ質問をする莉胡。

けれど莉胡が元東側の人間だと知らない幹部たちには、純粋な問いかけだと思われたようで。



「最近じゃ、西の全部をまとめて累って呼ぶようになったけどな。

もともとは大小いくつものチームが集まって、出来てる組織だ。累はその中でも大きい方で、ほかのチームを傘下にしていった。……俺らの中じゃ、それを回収って言ってる」



「でねー?

回収したチームと、いま一番連絡を取ってるのがはすみんなの。それでね、はすみんは西側の傘下のメンバーの顔と名前は、全員覚えてるんだよー」



「……まあ一応全員覚えてる俺が見てもわからないってことは、西側の人間じゃないね。

だけど西側の人間が、そこそこ大きな喧嘩をした時、相手の情報は俺に入ってくるからそのときに相手を調べるんだけど、そこで見かけた可能性が高いかなって」



でも、と。

ブラックコーヒーを口にした羽泉は、憂うようなため息をつく。