「うん、変えたの。わかる?」
「わかるよ。……前より甘い匂いする」
一通り梳いて、表面の熱がなくなってからふたたびドライヤーで濡れたところを乾かす。
それを15分ほどかけて全部乾かしてから電源を切ってもう一度櫛で梳き終えると、莉胡が立ち上がって俺を振り返る。
「ありがと、千瀬」
そう言って、ちゅ、と一度だけ触れるくちびる。
いちばんはじめに髪を乾かしてとねだられたときに、お返しにキスをねだってみたら、はじめこそ恥ずかしがってたけど莉胡は毎回欠かさずにやってくれる。
……これが結構好きだからいつも乾かしてあげてるんだけどね。
なんとなく、無性に莉胡が足りない。
キスもしてるのに物足りなくて膝の上に座らせると、うしろからぎゅうっと抱きしめた。
「10月はじめに、千秋の娘が誕生日なんだけどさ」
莉胡の髪に顔をうずめるようにすれば、甘い匂いがする。
前から思ってたけど、莉胡に関してものすごく匂いフェチかもしれない。莉胡から甘い匂いがすると、求めたくなる。
「姉貴が莉胡に会いたいんだって」
「……ちあちゃんの奥さん?」
「そう。……前からずっと会いたがってて。
その子の誕生日のときにうち来るらしいから、莉胡がいいなら遊びにおいでよ」
……ちょっと帰したくなくなってきたな。
明日休みだし、べつに泊まってくれたってかまわないんだけど。莉胡と一緒にねむって、朝は隣で寝顔を見つめてたいし。
「ほんとに?じゃあ、そのとき呼んでね。
写真でしか見たことないから、すごく楽しみ」