困った様子の彼女は俺に気づくと、縋るように名前を呼ぶ。
仕方なく彼氏でも装うかと口を開こうとして、その困り顔の理由に、気づいた。
「……、」
──ミヤケ、と。
思わず口をついて出そうになった声を呑み込み、「俺の彼女に何か用?」と、あくまで男をナンパに仕立てあげる。
「ん?俺の彼女ってことはリコ、
もしかして千瀬と付き合っ──テテ、ちょ、」
幸い、この場にいるのは千咲だけ。
けれど、もし、ミヤケが"月霞の人間"であることを知られたら。──俺らの関係を、知られたら。
「このひと莉胡ちゃんの、知り合いなの?」
こてん、と。
まだよくわかっていない千咲が首をかしげてるのをいいことに、「はやく去れ」という視線を、ミヤケに向ける。
「ううん、知らない……
初対面だけどわたしの名前知ってるなんて怖いし、千瀬がもどってきてくれてよかった」
「はあ!? おまっ、初対面じゃ、ったい……!
ちょ、まじで痛い痛い痛いって……!」
「何が? とりあえずはやく去ってくれる?
俺の彼女に接触されるの気分悪いんだけど」
しれっと踏んでいた足に力を込めて、はやく去れ、と嫌そうな顔をする俺。
気分が悪い、と言ってるだけに、露骨にそういう顔をしていても怪しまれないのは助かる。
何も知らない千咲が「はやく去った方がいいよー」と味方についてくれると、ミヤケは何か言いたげな顔をして、この場を去っていった。
……まったく。
「莉胡、何もされなかった?平気?」
──どうして東の人間が、西にいるんだか。