兄貴が言ってるおひめさまの話は。
月のペンダントの約束を交わしたあの、例の幼稚園のお遊戯会の話だ。
一体千秋はいつまで莉胡を子ども扱いしてるんだか。
もう高校生なんだけど、莉胡は莉胡で千秋からの姫扱いを嫌がろうとしないし。
……俺だけの姫で、いればいいのに。
『あ、ちーくんもしかしてわたしがリコちゃんのこといじめるとでも思ってるの!?
ひどーいっ。わたし仲良くしたいのに!』
「思ってないから。
そういうこと言うと俺が千秋に怒られるからやめて」
『じゃあリコちゃんに会わせてよー。
あっほら、今度すずがお誕生日だから、どっちにしても七星家にお邪魔することになってるしそのときに!ね?』
「あーもう……わかったから」
俺と千秋の恋愛面って大体おなじだけど。
どことなく彼女と莉胡も似てるから、兄弟揃ってなにやってんだ、とため息をつきたくなる。
結局莉胡と似た彼女のわがままを断りきれなくて、電話を終えてから本人の前ではつけないため息を吐き出す。
暇つぶしに俺に電話かけてくるのやめてよ、ほんとに。
「千瀬ー」
そういえば俺の幼なじみ何してんのかな、と。
めずらしく連絡も何もない莉胡のことを考えた瞬間扉越しの声に、口角を上げる。
晩飯も終えて、21時前。
正直男の部屋に出入りしてほしくはない時間だけど、どうせ莉胡は「幼なじみなんだから」って聞かないだろうし。
「いーよ入って」
そう言葉を投げれば、かちゃりと開く扉。
顔をのぞかせた莉胡はどうやら風呂も済ませてきたらしく、部屋着に濡れた髪。……やっぱりその無防備さは叱っておくべきかもしれない。