「……誰が相手でも、ちゃんと応援するから」
まるでじぶんに言い聞かせるみたいに。
そうつぶやいて、莉胡を起こさないようにしながらベッドをおりる。
もうすこしだけ、莉胡のその寝顔を見つめていたいけれど。
莉胡の特別じゃない俺が、そんなことをするのはただ純粋に、春と比べてずるいとわかっているから。
「好きって言うのは、これで最後だよ」
「………」
もちろん、返事なんてあるわけない。
莉胡が深く眠ってるのを知ってて、こうやって言ってるんだから。
「……好きだよ、莉胡」
これで最後。
そう自分の気持ちを素直に口に出したのは、いつぶりだったかわからない。──莉胡を優先してあげたいその気持ちに勝るものなんて、過去の俺にはなくて。
その笑顔を守るために、がんばってきたけど。
「……ごめん」
わかっていたはずの、一度認めたら後戻りできなくなるほど恋焦がれる気持ちに、目を伏せる。
……いっそ何度だって口づけて起こしてやろうかと、そんな考えがよぎる。
「応援したいけど……
応援できそうになくて、ごめん莉胡」
じぶんの感情は、たやすく押し付けたりしない。
だけどやっぱり、莉胡の特別は、俺だけでいたい。
そんな身勝手な感情に焼かれた、とある夏の朝。
俺に口づけられたことも俺の初恋がそんな昔からはじまってることも。……きっと、莉胡は知らない。
【一意専心 Fin.】