「……春は、すごく優しいわよね」
「………」
「うん……なんと、なく。
春と付き合ったらしあわせになれるんだろうなって、想像できる。……でも、」
莉胡の良いところは、一途なところで。
悪いところは、一途すぎる所だ。
「……わたしの好きな人は、ずっと変わらないから」
恋をしたら、ほかのことなんて目に入らない。
まさに盲目という言葉がぴったり当てはまるほど、ただただ一途にひとりの男を想い続ける。
その相手が振り向いてくれるのなら、莉胡は。
どんな女よりもいい女なのに。
「別れたとか片想いとかどうでもよくて……
ずっと好きだから、それでいいの」
──お願いだから。
莉胡の手を、もう一度だけ、つかんでほしい。
つかんだらもう二度と離さずに。
今度こそ確かな未来を、ふたりで歩んでいってくれればいい。──莉胡が誰よりも愛している十色さんと、たったふたりで。
「莉胡にそこまで想ってもらえる男が……
羨ましいと思うし、ちょっと憎いな」
「申し訳ないけど……
わたしは応えられないって、はっきり言っておこうと思って。あなたを振ったってとらえてくれても構わないわよ」
何度も何度もそう思っているのはたしかなのに。
俺が彼のもとへ交渉に行かないのは、莉胡がただただそれを望まないからだ。
「ねえ、春。
……わたしに失望するまでにあきらめたほうが、きっとあなたはしあわせよ」