強引に空気を変えようとそう拒む。

時間を確認した千瀬は「チッ」と舌打ちして、クローゼットから制服を取り出すわたしを見かねたのか、部屋を出ていく。



っていうか舌打ちするぐらいわたしとキス、したかった、の?

……って、そんなこと考えてる場合じゃないし、そもそも何小っ恥ずかしいこと考えてるんだわたしは。



「っ、やばい間に合わない……!」



「あと3分で俺家出るから。

間に合わないならダッシュで追ってきて」



「鬼畜すぎる……!」



あわただしく家の中を駆け回って支度するわたしと、「あらまあ騒がしい子ね」なんて言いながら呑気に千瀬とコーヒーを飲んでるお母さん。

なんだろうものすごく悲しくなってくる。



ばたばたと支度を終えて、千瀬に準備できたと駆け寄れば、1分遅刻だと怒られた。

3分って言われてから、女子高生が4分で準備したんだから褒めて欲しい。……でもまあ、1分遅刻したのに待っててくれた千瀬のことは、優しいと思うけど。




「おばさん今日もコーヒーごちそうさまでした。

いってきます。……ほら莉胡、行くよ」



「いってきます……!」



幼なじみと家を出て、なんとか間に合いそうなことにほっと息をついていたら。

ん、と差し出された手のひらに、笑みが漏れる。



「わたしと手繋いで登校するために、

ちゃんとわたしのこと待っててくれたの?」



「調子乗ってんなよ」



「ごめんなさい」



「……好きだから待っててあげたし手も繋ぎたいって思うだけだから。

言っとくけど今度俺以外の男に揺らいだら、十色さんが言ってた犯罪まがいなことに走る自信あるからね」