由真ちゃん……
旅行のときは普通に振舞っていたけれど、あのあと東西の話で忙しくなったのと同時に、千瀬を好きだと自覚してからなんとなく気まずくなってしまって連絡できなかった。
「……春がもどってきたら、
笑顔でおかえりって言うんだってさ」
「ふ。……あいつも物好きだな」
「俺は今日、莉胡に言うつもりはなかったけど。
……なんとなく察してたみたいに、別れようって向こうから言ってきたし」
「……仕方ねえから連絡してやる」
「ちゃんとただいまって、言ってあげなよ」
ふたりの間で交わされるトークがわからなくて首をかしげていたら、千瀬に「わからなくていいよ」と言われた。
それでも気になってしつこく聞けば、「うるさい」とくちびるを塞がれてしまって。……もちろんくちびるで。
「あーあ、莉胡真っ赤になって固まっちゃったよ。
それじゃあとりあえず西の総長サン、話をしようか」
「……ああ。
東の奴らも西の奴らも、わざわざ付き合わせて悪かったな。──東西が険悪になることは、もうねえよ」
「ふは、強気。
でもまあ俺もそういうの嫌いじゃないから、まあそういうことで。乃詠、ミヤケ、東の奴らは任せたよ」
織春と十色が手早くやり取りをして、2階へ上がっていく。
東と西はそれぞれ集まっていたけれど何事もなく解散するようで、ざわざわとしてるけど。
「……千瀬のばか」
千瀬しか見えなくて、困る。
やっぱり呼吸するのすら苦しくて、どうしようもなく千瀬を好きだってわかる顔を見せるのが嫌で、彼に抱きついて胸に顔をうずめた。
──東西の抗争は、とてつもなく平凡に終わる。
負傷者は生憎1名出たけれど、やっぱり仲間達が争う姿は見たくない。わたしたちを揶揄いに寄ってきたミヤケがまた千瀬に毒づかれているのを見て、ようやく、安堵の息が漏れた。