「……そうだね。その責任は負う。
ついでに、今回の勝負は西にすべてあげるよ」
「……東西の話はあとでする」
「うん。きみの気が済むまで話には付き合うよ」
千瀬がわたしの身を引いて、織春が十色に近づく。
彼が胸ぐらをつかんだのを見て思わずぎゅっと目を閉じると、千瀬が安心させるようにわたしのまぶたの上を、手で覆ってくれた。
「言っとくけど、俺の分じゃない」
え?と。
誰もが疑問を持った瞬間に響く、ガツンと鈍い音。
数秒の空白ができたのを耳で確認して、千瀬の手が離れてからまぶたを持ち上げる。
言葉通り織春は十色を殴ったようで、くちびるの端が切れたのか、血が滲んでいた。
「莉胡と千瀬に、遠回りさせた分だ。
こいつらはお互いが哀しむってわかってるから手を出したりはしない。だから俺が変わりに殴った」
「織春……」
「お前と同じで、千瀬には適わねえと思ったよ。
誰にも言ってねえから千瀬もどうせ気づいてねえだろうけど、莉胡とは別れてる」
そうなの?と。
千瀬に聞かれて、旅行に行った日織春から別れを切り出されたことを告げる。
わたしは別れるつもりなんてなかったけど。
心の底からしあわせになれるヤツといてほしいとお願いされてしまったら、別れない訳にはいかなかった。
どうして。
わたしのまわりには、こんなにも優しい人が多いんだろう。
「……春に、ひとつだけ。
由真には言うなって言われたけど、あの子、ずっと春がもどってくるの待ってるよ」