どうして織春?と首をかしげていたら、足音が聞こえる。

振り返れば歩み寄ってきた千瀬が、わたしの肩をつかんで引き寄せたかと思うと、またため息をついた。



「どうしようもないぐらい馬鹿だね」



「っ、な、」



「俺のこと好きだったくせにそう簡単に揺らいでんじゃねーよ馬鹿。

どうせ俺との約束も覚えてないんだろうけど」



「っ、覚えてるから!

月のペンダントの約束でしょ!?覚えてる!」



「だったらなおさら、なんで揺らいでんの?」



覚えてるんじゃなくて思い出したんだけど……!とは言えるわけもなく。

すみませんと小さく謝るわたしを見て、千瀬が口角を上げた。──そして。




「実はペアリングもあったって知ってた?」



「へ……?」



「月のペンダント、あれ俺の手づくりだから。

……あのペンダントつくったときに、俺気まぐれでペアリングもつくったんだよね」



「………」



「……ペンダントは十色さんに、買ったものだって嘘ついて譲ったけど。

俺ペアリングまでほかの人間に渡す気はないんだよね」



あきれたような、口調なのに。

意味を理解してしまったわたしの頬は、どんどんゆるんでいってしまう。



「まあアレ小学生のときにつくったものだし。

もうサイズ合わないだろうから意味ないんだけど……しまりのない顔しないでくんない?」