誰にも、言ってないのに。
どうして知ってるのと彼を見上げれば、十色は「そばにいたからわかるよ」と小さく笑う。
「……ごめんね千瀬」
「………」
「……俺の感情で振り回してごめん。
千瀬が莉胡を好きだって知ってたのに、両思いだってわかってたのに、大事な莉胡のことを取ってごめん」
「………」
「まだ俺が、莉胡を好きでごめんね」
十色がそう言って黙るから。倉庫にはあふれるほどの人数がいるはずなのに、誰も話すことのない沈黙が、痛い。
──ふっと落とされた千瀬のため息に、肩が跳ねた。
「莉胡が十色さんを赦せない理由が、初恋を奪われたからって。
……正直どうかと思ったんですけど」
……あ、れ?
うん?十色に、文句を言ってるのよね?
「……俺が十色さんを赦せない理由が。
俺の感情を踏みにじられたとかそんなんじゃなくて、莉胡をしあわせにする気なんて微塵もないのに付き合ってたことなんですよね」
「……さすがだね」
「でもまあ、正直俺もむかつくとこはあるんで、殴りたいぐらい赦せないっていうのはありますけど。
俺が殴れば、莉胡が、誰でもなく俺のために哀しんでくれるのはわかってますから」
自意識過剰じゃない?って、言いたいけれど。
千瀬に対して哀しんでしまうのは自分でもわかるから、何も言わずに彼の声を聞いていた。
「でも……
春に、累の6代目には、殴られてください」