ファストフード店へと向かう道すがら。

斜め後ろを歩く莉胡と春の会話を盗み聞く俺に、隣を歩くアルトは「気になんの?」と楽しげに聞いてくる。



それが俺の感情に薄々気づいてのことだとわかっているからこそ、むっと眉間に皺が寄った。

……言われなくても、ちゃんと、わかってる。



生まれてからいままで育ててきたこの感情を、「恋」でないと言うのなら。

俺は莉胡以外の人間に、それ以上の愛情を捧げることはできない。──莉胡だけが、ずっと、俺の心の中のいちばんだったから。



「欲しいものが、手に入らないのと……

大事なものを失うの。どっちがつらいと思う?」



「さあ、それは物だったり価値だったりによって変わるものなんじゃねえの?

……対象が莉胡なんだとしたら、お前も春も同じ立ち位置だな」



「……まさか。

対象は莉胡じゃないし、幼なじみの俺と知り合って数ヶ月の男を同じ立ち位置にされても困るよ」



俺は、莉胡に近づく余計な男をたしかに追い払ってはいるけれど。

それは何も、俺が莉胡を独占するためじゃない。




「……素直になればいいのによ〜」



見ている方がつらくなるぐらいに傷ついた莉胡に、これ以上傷ついてほしくなくて。

莉胡が本当にしあわせになれる相手が見つかるまでは、俺がこうやって彼女をまもっていくんだと、月霞から追放されたあの時に決めた。



結局俺にとって大事なものは月霞なんて遠く及ばない、莉胡だけだったんだと改めて実感する。

当時の仲間を失った今も、俺はその敵対する組織の奴らと笑ってられるんだから。



「莉胡と春が付き合ってもいいよ、別に。

……莉胡が心の底から、しあわせになれるなら」



ちら、とうしろを振り返る。

たった今のこの瞬間だけでもあの人の存在は消えているのか、莉胡は春の隣で楽しそうに笑ってる。



「──いなかった、とは、言わねえよ。

ただ、いまは莉胡以外の女を必要だとは思わない」



春が莉胡に向ける視線は、最上級に甘くて優しい。

何も言わなくても莉胡を包むような優しさと、愛でるような春の感情は、莉胡の傷を、きっと怖がらせることなく癒してくれる。