彼が思った通り、わたしは千瀬に演技で泣きついた。

だけど十色が予想外だったのは、そこじゃなく。



「……まさか千瀬が、それでも自分を犠牲にして莉胡のしあわせを願うなんて、思わなかった」



「………」



「莉胡が持ってる月のペンダント。

あれは乃詠がうまく改造してくれて、ロケットの中に盗聴器が入ってる。莉胡が触ってスイッチを入れたら、まわりの会話が録音される仕組みで、月霞の倉庫にデータが送られてきてた」



もちろんわたしはスイッチを自分で入れていたから、それは知ってる。

何度か西のメンバーの会話を東へ流すために、使っていたから。



「そしたら、聞こえてくる千瀬の言葉は、大抵莉胡を何よりも優先してるのがわかる。

……だけど、千瀬は1度も、自分の感情を莉胡に押し付けるようなことはしなかった」



1歩距離を詰めた十色が、わたしの涙を拭う。

それからわたしにだけ聞こえるように、「ごめん」と、謝った。




「邪魔がなくなれば今度こそ千瀬は莉胡を彼女にするって思ってたのに……

千瀬は俺が想像してるよりもずっと、莉胡のことを大事にしてた」



「………」



「だから……千瀬の目を盗んで莉胡が月霞に来たとき。

熱中症で倒れたっていう嘘をついて、わざと千瀬に会いにいった。……今度こそ、莉胡と千瀬をくっつけるために」



はじめて聞かされたその理由に、目をみはる。

熱中症の嘘は、東西統一にあまり時間をかけたくない十色が、手っ取り早く勝負をつけるものだと思っていたから。



「本当はね。

……莉胡に今回西を裏切ってもらって、西のトップと強引に別れさせたところで、どうにか千瀬とくっつける段取りだったんだよ」



「……十色」



「俺のことを、好きじゃなくなったときから。

……莉胡がまた千瀬のことを好きになったの、本当はわかってた」