「顔赤いけど?

恥ずかしがるようなことでもないでしょ?」



「べつに赤くしてないもん……」



「……ふーん?」



気恥ずかしいのはたしかだけど、顔は赤くない、ハズ。

だけど指摘されると余計に恥ずかしくなってくるから、顔を隠すように千瀬に背を向けて、髪を結びなおす。



「傍から見たらいちゃいちゃしてるカップルにしか見えないよー、ちーくん、莉胡ちゃん」



「どうしてそうなるんだか」



冷やかすような千咲の言葉に、はあ、とめんどくさそうな千瀬。

……昔から。わたしと千瀬は一緒にいるせいで恋人だと揶揄われることが多くて、いつも千瀬はそれを冷めたように「違うから」と返していた。




「春の前で言うのもなんだけどよ~。

お似合いなのに、付き合わねえの?」



わたしが十色と付き合っていたことを、外部の人間は知らない。

だからわたしに彼氏がいたことも当時の同級生たちは知らないし、十色のことを話す気は当然今もない。



「……莉胡は、ずっと好きな人いるよ」



ぽつり、と。

千瀬が告げた事実に、「へえ」と口元をゆるませるのはアルくん。……意地の悪い笑みなあたり、タチが悪い。



「好きな人とは、うまくいってねえってこと?」



「……半年前に別れたの。

聞いても面白くないから、この話はおしまい」



スマホを見れば、届く通知はアプリのお知らせばかり。

その中でもひときわ目に付くメッセージに『またあとで連絡する』とかえして、スマホをポケットに片付けた。