ねえ、お願い、と。
わたしのお願いを聞いてくれない千瀬。そのままわがまま言おうとしたら、春が「連れて行ってやろうか?」と声をかけてきた。
……むむ。
春とふたりで出かけることに抵抗があるけど、あの限定スイーツ食べたいし。
「……その限定スイーツって、何なの」
なんなら春と行っても良いかな、と思うぐらいには、一向に引かないわたし。あきれている千瀬は、とりあえず、というように聞いてくる。
その答えを待ってましたとばかりにスマホでサイトを開いて見せると、千瀬はそれを流すように読んで。
「……トッピングに乗ってる、めずらしいベリーはさすがに用意できないけど。
スーパーで売ってる材料揃えたら、これに近いのは作れるでしょ」
「……わたし器用じゃないもん」
いちごのケーキだけど、上に乗っているアーティスティックなチョコレートだとか、砂糖菓子で出来た花びらとか。
ある程度妥協すれば、作れなくもないと思うけど。
「……わかった。
これに近いものは作ってあげるから、わがまま言わないで」
「……ほんとに?」
「食べたいんでしょ?
……まあ、莉胡の行きたいって言ってる店、一流ホテルのレストランバイキングだし。そこまでのクオリティは求めないって言うなら」
作ってあげる、と。
わたしの食べたいスイーツまでもを作ってくれるらしい千瀬。先に言うけどいままでの経験上、わたしのわがままでお願いしたものに千瀬が期待はずれを返してきたことはない。
いつだって、わたしのわがまま以上のものをつくってくれる。
「ふふ、ありがと。
いつ作ってくれる?先にお礼のコーヒー買うから、一緒にお買い物行こうね」
千瀬へのお礼は、いつもちょっとお高めのコーヒーだ。
一体何歳なんだって言いたくなるけど、千瀬がコーヒーだけで美味しいスイーツを作ってくれるのなら、わたしは喜んで彼にコーヒーを買う。