わかったようにズケズケと心の中へ入ってくるのは、アルトとトモの悪い癖だ。
俺は一度も莉胡を好きだなんて言ってないし、ふたりの都合の良い妄想だと言えばそれまで。……でも。
「俺がわざと莉胡に言わない、ってさ。
それ俺にメリットとかひとつもなくない?」
……突っかかってしまえば、おしまい。
助手席のアルトは斜め後ろの俺を振り返って、一瞬真顔になったかと思うと、くすりと吐息のような笑みを漏らす。
「言わないことにメリットがあるんじゃないだろ〜?
"言う"ことに、デメリットがあるんだろ?」
的確に心中を突かれて、一瞬声を呑む。
それだけの行動で何もかも見透かしたように再度笑ったアルトに、敵わないなと思った。さすが女を口説き落としてきただけはある。
「……ぜったい、言わないでよ」
こうなればもう、俺も開き直るしかない。
嘘を突き通したところで、このふたりには手札の見えたババ抜きをしているようなものだから。──あがいたところで、俺の負け戦。
「はっ、お前俺らのこと信用してねーなー?
お前が何年も隠してきたのに、わざわざ俺らがばらすかよ」
「俺がふたりを信用してる時間よりも隠してきた時間の方が長いからだよ」
「念押しされなくても、俺らは他人の秘密をそうたやすく口にしたりはしねえよ〜。
言っとくけど俺ら一応西の幹部だぞ〜」
ずっと。──ずっと、秘めてきた。
ううん、秘めてきたわけじゃなかった。ただ認めればあっけなく、求めてしまうと知っていたから。
「……春にも渡したくないに決まってんじゃん」
たかが幼なじみの俺には、容易に手を伸ばせなかった。
幼なじみなのに独占欲なんて出せなくて、俺のことを幼なじみとして好きだと言う莉胡に、俺はそんな風に見れないなんて言い出せなくて。
だから、この間言ってしまった時、しまったと思った。
幼なじみが嫌だったわけじゃない。──莉胡が俺をそれ以上に見てくれない関係が、ただただ嫌だっただけなのに。