そこにあるのは、枯渇なのか至福なのか。

──それを考えた時点で、もう。残るのは、知りたいという欲求と焦がれるような恋情だけ。



「その瞬間から、嘘じゃなくなった。

……一目惚れだっていうのは、違うけどな」



黙ってて悪かった、と謝る織春。

それにふるふると首を横に振って、彼に近づく。腰掛けている織春はわたしよりも目線が低くて、彼を見下ろすのは何気にはじめてかもしれない。



「……わざわざ言ってくれてありがとう」



ぎゅう、と。

彼の首裏に腕を回して抱きしめると、織春の髪に指を潜らせる。指の間を、滑らかに通る細い髪。



「わたしに言わなくても、よかったのに。

……それでも話してくれてありがとう」



織春がわずかに目を細めて、甘えるように顔をうずめてくる。

それがかわいくて思わずくすりと笑うと、織春の腕がわずかな隙間もなくすようにわたしを抱き寄せた。




「……ねえ、織春」



「ん?」



「……ううん、なんでもない」



ぴったりと身を寄せる。

特に何をするわけでもなく、たったふたりでこの部屋にいるのはあまりにも静かで、ここだけ時間が止まっているような気がした。



ただただ心地いい沈黙に身を委ねていると、不意に織春がわたしの名前を呼ぶ。

ほっとするような声色に「うん?」と返事して、視線を絡ませた。



「……いや。なんでもない」



完全にわたしを揶揄っている織春に、頬をふくらませて、そんなわたしにくすくす笑った彼が、そっとくちびるに口づけをくれる。

織春といるのは、本当に、心地いい。──だって誰かといるときみたいに、感情を、焦がされるような思いはしないから。