「空き教室の鍵〜?
ん〜……まあいいけど〜。あとで返せな〜」
学校に着けばすぐ、織春がアルくんに交渉する。
どうやら先に出ていたようで千瀬の姿も教室の中にあったけれど、テスト返しもちゃんと来ているトモと話しているようだったから声はかけなかった。
「羽泉。
……1限サボるから、言い訳は任せた」
「はいはい。いってらっしゃい」
アルくんと羽泉、そして千咲にひらりと手を振って見送られ、わたしも振り返して織春と空き教室に向かう。
シンと静まり返った廊下。慣れたように進んで彼が開けた空き教室の中は、夏だというのに、薄暗くてひんやりとしてる。
「……校内で女と遊べるようにって、勝手に部屋探したらしいけどな。
ここなら誰も来ねえし、まっすぐ行って角曲がらねえと普段使う廊下まで遠いし、ちゃっかりしてんな」
呆れを通り越して、もはや尊敬するレベルだ。
電気をぱちっとつけた織春に倣って、近くの机を拝借して腰掛ける。……机に腰掛けるのは申し訳ないけど、今回だけだ。
「莉胡。
……俺がお前と出会って間もないときに、一目惚れだったって言ったの、覚えてるか?」
もちろん、覚えてる。
それをきっかけに彼はわたしと時間を共にするようになり、徐々に幹部とも仲良くなった。──まだ十色を好きだったわたしは、一目惚れ、の部分にはあまり触れないようにしていたけど。
「……本当はあれ、嘘なんだよ」
「……え?」
突然。
彼から告げられた言葉に、首をかしげる。それから噛み砕いて、教えられた事実に目を見張った。
「うそって……どういうこと?」
──その感情がもし、嘘だと言うのなら。
わたしたちが付き合っている理由は、どこにあるの。織春が想ってくれてるからこそわたしは彼女でいられるのに、それまで、否定されたら。