「……千瀬にも、思うところがあるんだろ。
莉胡は、千瀬が幼なじみだってことにこだわりすぎなんじゃないか?」
「……だってわたしにとって千瀬は、ずっと何よりも大事な幼なじみなんだもの」
──そう。
生まれた時から当たり前のように一緒にいて、家族同然の存在。近くにいなくても、間違いなく心はつながっているとわかる存在。
『ひとりに決められないなら、
ほんとに好きな男ができるまで誰とも付き合うなよ』
幼なじみだから大事で、大好きで。
それ以上でも以下でもなくて、恋愛感情でもなくて、家族愛でもない。
そんな、わたしたちにしかわからない感情を、お互いに築いてきたはずだった。
なのに彼が昨日わたしに向けた苛立ちは、築いてきたソレには当てはまらないもの。
正直に言うと。千瀬にくちびるを撫でられたあの時、一瞬、キスされるかと思った。
そんなわけないのに。そんなはずないのに。──勘違いしてしまうほどわたしに向けられた感情が、幼なじみを超えたものだったような気がする。
「……莉胡」
「うん?」
「1限はテスト返しだろ。
……今日だけ、ちょっとサボらないか?」
めずらしい織春の提案。
暴走族所属者揃いなのに、みんな真面目に授業を受けているわたしの学校では、サボっている方がめずらしい。たまにアルくんは女の子といなくなるけど。
「……いいわよ。
先生に見つからない場所って、ある?」
このまま千瀬と顔を合わせるのもなんだし、と。
その提案を呑めば、「アルトから空き教室の鍵借りる」とさも当然のように言う織春。……うん。
どうしてアルくんが空き教室の鍵持ってるの、とか。
気になるけど、どうせまともな返事はかえってこない。あっさり「ちょっとパクってきた」とか言われそうだ。